音楽指導をしていると、大きく分けて二通りのできる人に会います。
言われたことを言われた通りに努力して基礎からできるようになる人と、
言われたことを言われた通りに数回繰り返しただけで別のやり方を思いつき、
結果だけは同じ結果に辿り着ける人です。
これはどちらが素晴らしいのでしょうか。
言われたことを言われた通り見事にやり通し、
あなたと同じくらいの努力をしてできるようになった子は、
無条件に褒めてあげなければなりません。
しかし、言われたことは言われた通りに数回やったが、
別のやり方を思いつき、あなたがやったよりも少ない手順と回数で、
同じ結果に辿り着いた子が出てきた場合も、
その子に対しても無条件に褒めてあげなければなりません。
この時、どちらの子が優秀かを考えている場合ではありません。
また、子供の方が優秀だったからといって悔しがっている場合でもありません。
指導者だって人ですかにその気持ちも分かりますし、もし駆け出しなら尚更です。
でも、「後から来る世代の方が必ず優秀である。」という事実は、
どのような分野であっても変わらないのです。
手本の通りに結果を出した子も、結果のみだが同じ結果に辿り着いた子も、
どちらの子にもそのようにして成し遂げる能力があったということです。
だから、指導した者としてはどちらも受け入れるべき、ということになります。
さて、指導者は、あなたが教えたことの結果を返してきた人達を通して、
今目の前で起きたそのことから学び、自分を鍛え直し、
さらに変わり続けていかなければなりません。
仮に、10手で完成する型があり、それを教えたとします。
先の子供の前者は、あなたの言う通りに10手で成し遂げたとします。
後者は9手で成し遂げたとします。
この時指導者は、「なぜ10手で教えたか」について知っている事が大切です。
「軸となるのはコレとコレ、外してはならないものはコレとコレ、
手順はこう。気を付けなければならないのはコレとコレ。
だからこのようにできるのだ。」
というように、理由があって10手でなければならないのです。
9手以下では本来の完成形ではないのです。
仮に変化形として9手以下のものが存在したとしても、
それを教える前の基本としては、やはり10手の型から入るべきです。
また、教える技術の内容にも因りますが、
最も無駄を省いた最短の方法や骨子などは事前に自分で研究しておき、
よく理解した上で、6~7手でできるくらいにはしておいた方が良いでしょう。
もし9手で「できた!」という子が出てきたとしたら、
10手の型のうち、どの過程が抜け落ちたかに気付いてあげる必要があるからです。
※ただし、結果にたどり着くための発想は褒めてあげることが大切です。
褒めるべき所は褒め、どのような感想をもったかを聞くなら聞く。
そして、じっと観察するなり、即座に修正するなり、
適切なタイミングで正しい方法を伝えてあげた方が良いでしょう。
できればその日のうちに直してあげることです。
中には残念ながら、「自分は先生よりも一手早く9手でできたのだから、
自分の方が優れている。」と言ってくる子もいます。
その時は冷静に6手のものをやって圧倒的な差を見せ、
にこやかに「まだまだ」とでも言ってあげればよいでしょう。
そしてその後その子には、10手の型で必ず徹底してやらせる必要があります。
未熟なのに声だけ大きかったり、技術だけが上手になってしまったばっかりに、
周りの言うことを聞かずにプライドだけは高く、周りも何も言えないという、
いわゆる「鼻つまみ者」と言われるような人が集団の中に一人でもいたら、
あなたが次に訪れるまでの間に、10手の型を教えたにもかかわらず、
9手のほうで定着してしまっている可能性は、かなり高くなることでしょう。
指導者が教えた内容や技術は、その集団の文化として根付くことがあります。
しかしその集団で育んでいく過程では、ある程度の状態が形成されるまでは、
思ったよりも弱く、あっけないほど簡単に崩れ去ってしまうこともまた多いのです。
こういう点は、特に外部指導者であるほど気にして見ておくとよいでしょう。
「鼻つまみ者」と思われる人は、できれば初回の時や早いうちに、
誰に聞かずとも自分で察知して割り出し(その力は自分で磨いて下さい)、
技術の面でも口のきき方の面でも徹底的に格の違いを見せつけ、
その後はこちら側に引き込んで、大切に大切に接してあげるとよいでしょう。
加えて、「指導者は味方である」という姿勢で在り続けることは、
一分一秒たりとも解除してはいけません。
その人は、今は鼻つまみ者と周りから思われているだけで、
指導者のあなたを通して、これから輝き続ける人になるべきだからです。
本題に戻りますが、
言われたことを言われた通りに努力して基礎からできるようになる子と、
言われたことを言われた通りに数回繰り返しただけで別のやり方を思いつき、
結果だけは同じ結果に辿り着ける子を比べたとしても、どちらも素晴らしく、
褒めて認めるべき対象であり、そこから学ぶべき対象です。
自分がやってきたことを人に教えることについての理論はよく知っておき、
その分野で使う型や技術もしっかりと磨いておくことです。
また、様々な人や物事に対しても、興味を持って接していく姿勢が大切です。
相手も、最初のうちは一回できたくらいでは再現することはなかなか難しいし、
理論や決め事なども一回聞いたくらいでは覚えられないことがほとんどでしょう。
さらに、反復して定着させていく過程で諦めてしまう人もいます。
(これらの点は、みんなもあなたも私もきっと同じかもしれませんね。)
また、反復練習しなかったり、忘れてできなくなってしまうのはよくあることですが、
自分がその場にいておきながら、
「自分は教えたけど、相手はできていない」では意味がありません。
焦らずじっくりと、しかし必要となる期日には間に合うようにやっていきましょう。
知識などについては、人生の上で他にやらなければならないこともあるでしょうし、
教える時間にも準備の時間にも限りがありますが、できれば、できるだけ詳しく、
例えば、オタク、マニアなどと言われるくらいには知っておくとよいでしょう。
筆者は(恐らく「異常なほど」という意味からでしょうが)「変態」と言われ、
閉口してしまったことがありましたが、楽しい思い出です。
最後に、「子どもから学ぶ」とはよく言ったものですが、経験上その通りです。
そして、その子供から学んでいる大人の姿勢も、子供たちはよく見ています。
その姿を見てまた子供は学び、更に成長していくのだと思います。