人を動かす話法の仕組み|連結法・分離法・ダブルバインドの心理学

 

 人は「言葉」そのものよりも、「言葉の組み合わせ」によって動かされることがあります。

 理由をつけられると断りにくくなったり、選択肢を提示されるとその枠の中で考えてしまったり。
 こうした心理の仕組みを知っているかどうかで、コミュニケーションの見え方は大きく変わります。

 今回は、

 ・連結法
 ・分離法
 ・否定的ダブルバインド
 ・肯定的ダブルバインド

という4つの話法を整理してみます。

 強い成功法則としてではなく、「こういう仕組みがある」と知っておくためのものです。
 知ることは、自分を守ることにも、理不尽なこと防ぐことにも、より良い関係づくりにもつながります。

 

 

1. 連結法|理由があると否定できなくなる(しにくくなる)

 連結法とは、本来は無関係なもの同士をつなげることで、否定しにくくさせる話法です。

 人には「理由づけされると無批判になりやすい」という性質があります。
 その理由が正しいかどうかにかかわらず、「○○だから××」という構文そのものが心を動かします。

 連結法の基本は、「事実 + 暗示」といった組み合わせをすることで、特定の考えを刷り込むことです。


 例

 ①事実 + 暗示 → 「一人っ子だからわがまま」
  「一人っ子」という事実と「わがまま」という暗示が連結される。


 暗示だけなら否定は簡単です。
 しかし事実と結びつけられると、事実を受け入れた瞬間に、暗示まで受け入れやすくなります。
 つまり、事実は受け入れて、暗示だけを否定することがとても難しくなる、ということです。

 他にも、


 ②暗示 + 暗示 → 「あなたは優しいから人気がある。」

 ③事実 + 要求 → 「新しいアトラクションができたからディズニーランドに行かない?」

 ④要求 + 要求 → 「ピザを取って映画を見ない?」

 ⑤暗示 + 要求 → 「○○さんは人前で話すのが得意だから司会をやってくれない?」


 というように、例えば⑤なら、ただ頼むよりも理由をつけると、相手は引き受けやすくなります。
 同時に、自信を持たせる効果もあります。

 使い方によっては、相手を励ます力にもなり得る方法です。

 

 

2. 分離法|相手の中の「別の顔」を味方につける

 分離法とは、ひとつのものをあえて複数に分けることで、相手の意見を否定せずに、自分の意見も受け入れやすくさせる話法です。

 例えば、


 「あなたは頑張りすぎです」
 「別にそうは思わないです」
 「待っていることにも気づかないほど頑張っているんですよ」


 ここでは、


 ・頑張りすぎていることに気付いていない自分
 ・本当は頑張りすぎている自分


に分離しています。

 相手の「頑張りすぎていない」という思いを否定せずに、気づかないところでは「頑張りすぎている」ことを分かってもらえたら、より相手に寄り添ってあげることもできます。
 つまり、相手の自己認識を否定せずに、もう一つの側面を提示する、ということです。

 よくある表現として、「建前ではなく本音を教えて」などがあります。
 建前を言ったつもりはなかったとしても、そう言われるとその発言は建前のように感じられます、
 すると相手は「果たして自分の本音は何なのだろう?」と考えてしまい、思いもしなかった本音を語ることになるのです。

 他にも、


 ・良心に聞いてみなさい
 ・言葉ではなく行動で示してほしい
 ・オフレコで個人としての意見を聞きたい
 ・本当のあなたを見せてほしい
 ・無意識にそうしたんじゃない?
 ・顔に書いてあるよ
 ・昔のあなたならそうは言わないと思う


 人に矛盾がないことはありません。
 だからこそ、人格を何らかの概念で分けられると、相手はその存在を簡単には否定できなくなります。
 そして、一度認めると、後戻りもしにくくなるのです。

 また、相手の中の一部分でも味方につけることができれば、そこから切り崩すこともできます。
 これも心理のひとつの特徴です。

 大事な時に自分の話を上手に伝えたり、本当に相手のためになりたい時など、誠実に使いたいですね。

 

 

3. 否定的ダブルバインド|逃げ場のない矛盾

 否定的ダブルバインドとは、どちらを選んでも正解にならず、逃げ場もない状態のことです。

 例えば、

 「分からないことは自分で判断せず、必ず相談しなさい」と言われる。
 だから相談すると、「こんなことも分からないのか」と怒られる。
 では自分で判断すると「なぜ相談しないで勝手に決めるんだ」と怒られる。

 どちらを選んでも否定されます。

 人の心は矛盾が苦手です。
 逃げられない状況で矛盾した命令を受けると、人は相手を変えるのではなく、自分を変えることで整合性を取ろうとします。

 自分を変えることで、どうにかしてその矛盾を「矛盾ではない」と思い込もうとするのです。
 矛盾している相手を変えられなくても、自分を変えることで矛盾を解消することはできるからです。
 しかも、自分が変化したことに気づかないことさえあります。


 また、怒っているとして接しても、怒っていないとして接しても、どちらも否定されることがあります。
 そのような、言語的なメッセージと非言語的なメッセージが矛盾している状態も同様です

 相手が怒っている時に、その怒っている理由が分かれば、謝ることも説明することもできます。
 または、自分の正しさを主張することもできます。
 それなのに、「怒っていない」と言われると、解決すること自体を禁じられてしまいます。

 するとこちらは混乱し、相手の顔色をうかがうようになり、少しでも機嫌が良くなるように行動してしまいます。
 次第に相手の言いなりになっていき、相手の望むことを自ら進んでするようになります。

 しかもそれは、相手が怒っているから仕方なくそうするのでありません。
 相手は怒っていないのだから、純粋に「自分の意思で」していることになります。
 これも一種の洗脳と言えるでしょう。


 頼まれたことは断れます。
 しかし、自分の意思でやっていることをやめるのはとても難しく、結果的に相手にコントロールされるようになってしまうのです。

 

 

4. 肯定的ダブルバインド|どちらを選んでも前進する

 一方で、相手がどう答えてもこちらにとって正解になる状態を、肯定的ダブルバインドと呼びます。

 連結法の例も、実はこれに当てはまります。
 人は、二つ以上の文章が連結されると、理性は最後の文章を重要視する傾向があります。

 例えば、


 ・彼は地味だけど頭はいい → 「頭がいい人」を想像する

 ・彼は頭はいいけど地味だ → 「地味な人」を想像する


 そして、「彼は頭はいいけど地味だ」の場合、それにどう答えても、前半部分の「頭がいい」も認めることになります。

 人は選択肢を与えられると、その他の可能性を考えにくくなり、その中から最良のものを選ぼうとします。
 この現象は「選択肢の幻想」とも呼ばれます。

 であれば、日常生活なら、どれを選んでも前進する選択肢を用意してあげるのが、最もシンプルな肯定的ダブルバインドになりす。


 「家事を手伝ってほしい」 → 「食器洗いとゴミ出し、どっちがいい?」


 ここでポイントとなるのは、「やるかどうか」ではなく「どちらを選ぶか」になります。
 どちらを選んでも「こちらにとっては正解」となる選択肢を複数用意し、相手に選んでもらえばればよいのです。

 

 

まとめ|知ることで自分を守り、活かす

 今回のポイントを整理します。


 ・連結法
  → 理由づけで否定しにくくなる

 ・分離法
  → 相手の中の別の側面を提示する

 ・否定的ダブルバインド
  → どちらを選んでも否定される矛盾

 ・肯定的ダブルバインド
  → どちらを選んでも正解で、前に進む選択肢


 これらは、知っていれば、おかしな状況に巻き込まれにくくもなります。
 そして使い方次第では、相手に自信を持たせたり、選択を後押ししたりする力にもなります。

 しかし一方で、人をコントロールするための技術として使うこともできます。

 言葉は道具です。
 どう使うかで、関係は大きく変わります。

 自分の放った言葉が、人の心理にどう作用するのか。
 知ることで守れるし、活かすこともできる。

 まずは「こういう仕組みがある」と知ること。
 それだけでも、コミュニケーションは少し自由になります。

 できることなら、知ったからには、今までよりも誠実な自分でありたいものですね。