何か物事に取り組む時には、「やるからには上手くなりたい」とか、「発表会や大会などで満足できる演奏をしたい」とか、「結果を残したい」などという思いは誰にでもあると思います。
これは音楽だけでなくどんな分野でもそうだと思いますが、ある一定の作業が平均的な基準を上回るためには、反復して熟練度を上げていくことが不可欠です。
そしてその反復の中身や効率こそが、周囲や過去の自分と比較した時の歴然たる差を作るための要因となります。
音楽に限って示すのであれば、例えば練習の中で以下のような流れを作れれば、個人練習においてもパート練習においても、反復練習としてかなり役に立つことでしょう。
①反復練習したい箇所を決める
覚えきれていない箇所や成功率の低い箇所を2~4小節くらいに絞り込みます。
稀に最初から一曲丸々つなげようとする人がいますが、反復することに関しては効率が悪いです。
②メトロノームを鳴らす
提示されているテンポよりもゆっくりの設定から始めます。
自分の動作を自分で確認しながらできる速さ、或いは、プレッシャーがかかからない程度のゆっくりとした速さからでよいです。
③構える
楽器を持っていない状態でも正しい姿勢をとれていますか。
楽器を持ったら姿勢に加えて構えができていますか。
④予備拍
場面やフレーズ感などにもよりますが、基礎連などで例えば4拍子であれば、8拍程度でよいでしょう。
アンブシュア、ブレスのタイミング、振り上げ打ち下ろしのタイミングなど、最初の発音に必要な動作はできていますか。
⑤演奏する
⑥演奏を繰り返す / 終える
譜面の様子や場面に因りますが、例えば4小節やるのであれば、次の5小節目の一拍目までやると繋がりを意識できるので、そこまで演奏して止めると良いです。
その後、
・続けて反復する場合、④へ。予備拍のうちに構えも確認します。
・反復練習を一旦終了する場合、③に戻る。
文章にすると少し煩わしさがあるかもしれませんが、ここに挙げたものはあくまでも一例ですので、ご自身の環境に合わせて流れを作っていけばよいでしょう。
繰り返しは好きなだけやればよいですが、分からなければ4回やって一区切りするのがよいでしょう。
一周目→自分がやることに集中して演奏する
二周目→自分がやることができているか確認しながら演奏する
三周目→周りの音に合わせることに集中して演奏する
四周目→周りの音に合わせることができているか確認しながら演奏する
このようにすると特にパート練習の時に周りに注意を払えるようになることにも繋がりますので、いろいろ考えてやってみるのもよいでしょう。何事も経験が大切です。この四周を1セットとして、たくさん反復していきましょう。
その他にも、10回やってみて「10回中何回成功できたか」などと成功率を確認するようにすれば、成長も確認しやすくてゲーム感覚も得られる上、意外と集中できます。
いずれにしても、上記のように4~10回程度繰り返したら、必ず少し休憩を挟むことです。
譜面を覚えてくると、休憩中にも脳内で音楽を再生したりイメージしたり、体も覚えてきて勝手に動いたり反応したりと、少しずつ変化が表れてきます。
休憩を挟むことで体の面ではオーバーワークを避けつつも、頭の中では反復再生しているという状態が、上達には大切なのです。
そして、翌日や翌々日程度の時間を空けて、一旦忘れていた記憶や動作を思い出す、という作業もまた大切です。
さて、実際のところ指導先で、特に基礎練習を見る時などでは、「いつも回収している流れで基礎練習の①番を見せてください。2回繰り返して終わってください。」などと指示することがあります。
多くの場合、個人を見ている時もパートを見ている時も同じ様に、生徒さん達は照れくさそうに恥ずかしそうに始めます。
モジモジしながらなんとなく始まって反復に失敗し、一周目で終わったりします。仮に二周目までできたとしても、終わり方までは揃っていません。揃っていたとしても、始める時と終わった時で構えが崩れています。
間違う度に「違うよ、いつもはこうしてたよ」と言い訳を始めて演奏を止める人が出始めます。そしてその後は、5分でも10分でも平気で時間を無駄にします。
結局、私が最初に言った指示すら忘れています。
もちろんレベルに合わせた結果が出るように指導していきますが、こうした現象は、強豪チームでないところほど顕著に現れます。
正直なところを言えば、細部に至るまで細かい決まりがあった方が、団体競技としては統一されていく分その方が望ましいです。
しかし、今の時点でやれる能力の限界や、残されている時間もありますから、せめて個人やパートで練習をする時だけでも一連の流れを決めて、それが自分で、或いは自分たちで、しっかりとできるようになるまで身に付けることです。これは成長したり上達するために確実に必要なことです。
人それぞれに多少の違いはあるかもしれませんが、どなたでも日常やっている、「朝起きたら布団から出て、トイレに行って洗面所に行き、手を洗って顔を洗って歯を磨く。その後に台所に行ってコップに一杯の水を飲む。」というような、ごく当たり前の流れを練習時間にも作って活かしていくだけで、上達の度合いとしては随分変わっていくものなのです。
おそらく指導者と言われる人たちの多くは、こういった反復作業を自ら組み立てて行い、何千回でも何万回でも繰り返して改善させていた経験のある人がほとんどでしょう。
ですから、皆さんが「たくさん練習してきました」と言っても、実際どの程度だったのかは見た瞬間に完全に即バレしていると思って間違いありません。
もちろんそれ以前に「基礎練習は何番まで覚えればいいですか」とか、「この練習が何の役に立つのか分からなかったので、やってきていません」などと言っている人は、論外と思われてしまうでしょう。
もしも運良く指導者から「この流れを作った方がいいよ」と提案されるような機会があれば、先程の四周1セットを、四の五の言わずに最低100セットは繰り返した方がよいでしょう。
なぜなら、指導者という人たちは型やコツを身につけていることがほとんどだからです。
しかも、反復練習についても、誰がやってもある一定の効果が見込めるレベルで既に効率化されていて、さらに教えたがりで応援したがりだからです。
確かに皆さん一人一人に対して10年くらい先の未来まで考えてくれたり、専門領域以外の日常生活まで保証してくれたりすることはありませんが、あなた自身がやる気や興味を持ってやっていることなのですから、あまり怖がったり気を遣いすぎたりせずに、上手に指導者のフォローを得たり接したりしていけば、上達はより早まるでしょう。
この世の中にあるほとんど全ての分野において、自分一人で自分の思いついたことを自分のやりたいようにやって、自分の望み通りの時間で望み通りの結果を出すということは、おそらく不可能と言っても過言ではないでしょう。
そして、何事にも物事の基本というものがあり、多くの場合、あなたよりも先にその道を進んでいった人達がいます。
自分が今から向き合う世界に必要な「姿勢、構え、型」を、そうした人達の力を上手に得ながら、出来るだけ早いうちに、できるだけ手堅く、できるだけ効率よく反復して身につけていくことが、上達や成功の鍵になることは間違いありません。