「できない」を小さく切り分けて対処していくための考え方


 誰にでも、できないことはいくつもあるものです。
 だから、気合いだ、根性だ、だけで何とかしようとせずに「今の自分のできる範囲で、できることから始められること」を見つけて、そこから始めていくとよいです。
 と言っても、上達したり、場数を踏んだり、何かの成功体験を得たりしなければ自信もつきませんし、人よりも気合いと根性で反復練習や体力づくりをしなければ話にもならないこともあります。

 さて、筆者が音楽指導で初心者や子供に多く触れてきた中には、「今の自分のできる範囲で、できることから始めていく」ことすら、どうしていいかわからない人も少なからずいました。
 また、その人にとっても「できない」という簡単な言葉で済ませる癖がついてしまうと、根気強さも粘り強さも持たず、自力で奮起させる力も無いままになるでしょう。
 自己分析をするという観点から見るとしても、その分析する力自体が伸びていかないことにも繋がってしまいます。

 少なくとも、「できない」を頭の中で反芻して心理的に反復強化してしまうのは良くありません。
 もしその相手が個人で自主的に「なんとかしよう」とできる年齢であれば、頭の中で考えていることを少しでも言葉にしたり、キーワードや箇条書きの文章などで構わないので書き出してみたりして、一度頭の中をスッキリさせてしまうと良いでしょう。
 また、指導者やインストラクターと言われる人はその目線から見た時に、どのステップの「できない」なのかを見極めて、必要となる課題を作ってあげたり支えとなる言葉をかけあげたりして、同じ方向を向いて進んでいかれるように接してあげられると良いでしょう。

 以下は一例です。
 筆者の今後の実績や実体験に伴って、まだまだ増えていくことでしょう。

 

①そもそも今やっていることが理解できない
 練習に取り掛かる前に、「これからやること」を確認しておくとよいです。
 始めのうちはこれから何をするかが分かってから行動した方が良く、初動から終わりまでの一連の流れを作ってあげたり、手本を見せてあげてから本人にやってもらうようにするとよいでしょう。

 また、やっている最中も、数回反復した後や一区切りついた時に、あらためて「今やっていることはこれ」とか、「さっき説明していたのはこのことだよ」と伝えられると尚良いでしょう。
 もちろん、できた時は褒めてあげることも忘れずに。
 さらに、終わった後は「どんなことをやって、分かったやできたことは何か」を本人の言葉として言ってもらうと、その人の記憶にもより強く残ることでしょう。

 

②言葉や文章としては理解しているが、体がついていかない。
 要は、「頭で分かっていても体が反応しない」ということです。
 成長期を過ぎた後~中高年の方に多いかと思います(スミマセン)。
 また、成長期の学生さんや子供でもあることです。

 譜面を覚えても、体がそれに合われて反応して動かせるようになっていく時にはよくあることです。
 これは、その一連の動作に慣れたり、体が覚えるまで繰り返す必要があります。
 マーチングバンドなら特によくあることなのではないでしょうか。

 誰だって、普段の生活の中でテンポ130でシングルタンギングをしたり、スネアドラムのトラディショナルグリップなんてしたことないでしょう?
 学校行くときにリアマーチしないでしょう?
 左の顎と左肩の間にバイオリンの代わりに「いつもカバンを挟んでます」なんて人もいないでしょう?

 そうです、いつもと違うことをやっているのだから、最初のうちは誰でも同じようなものでなのです。
 だから、できないことに心配したり不安になったりし過ぎずに、普段から練習して慣れていきましょう。
 ともあれ、まだまだ実践経験が足りていないということもあるので、つまりこれから伸びていく人でもあるので、「教わったとおりできた」、「一人でやってみてできた」、「譜面などを何も見ずにできた」、「同じパートの人と合わせてできた」というようなステップを踏みながら、経験値をたくさん積み上げていくとよいでしょう。

 

③要求されたレベルでできない
 初心に立ち返ってみて、守破離の守をもう一度復習してみるとよいでしょう。
 「そこそこ成長してきたぞ」と感じてきたときに限って、基本の「き」がスッポリと抜けてしまうことはよくあります。
 そういうことは誰でも通る道ですから別に恥ずかしいことではないですし、もう一度基本を復習して手堅い力を身に付ける良い機会でもありますから、落ち込み過ぎずにいきましょう。

 大体の原因は、筋力不足や、テンポ感やリズム感などの正確性や、狙った音を一発で出せる命中率(これも大体は筋力不足)ということが多いです。
 また、「要求されていることは何だったか」、「具体的にどのような技術か」が曖昧になってしまった場合は、先生に怒られようが何だろうが、もう一度確認してみると良いでしょう。
 座奏しか経験のない方には少し分かりづらいかもしれませんが、マーチングバンドであれば、聞かずに放置することはクラッシュ(ぶつかり合う)してしまう事故のもとであり、そのクラッシュ一回で怪我をしたり、金管楽器の人なら歯でも折れようものならプレーヤー生命が終わってしまいかねません。

 もし初心者であれば焦らずに順を追って取り組みながら、しっかりとした土台を作っていくことです。
 さらに、自分で理想のかたちを描くなどの意識づけをしていくと良いでしょう。
 指導する側の目線として言えば、要求することは何か(主に技術のことが多いと思いますが)が明確になっているかを振り返ってみると、そのための練習への道筋を付けられるかと思います。

 

④ゆっくりやらないとできない
 今できる速さで始めて、頭や体が慣れるまで反復することです。
 慣れてきたら少しずつ速めていくとよいでしょう。
 例えば、ある2小節をテンポ100から始めてみて、三回連続でできたらテンポを5上げたり、三回連続で間違えたらテンポを10下げるなど、目で見て分かりやすくしたり、紙に書いてチェックしやすくすると良いでしょう。

 とはいえ、人間の体の成長や反応のこともありますから、かなり難しいことでも「100回やったら101回目から突然できるようになる」ということは期待できません。
 一般的には、筋肉や感覚が育ちながら、それと並行して「反復して、出来て、忘却して、思い出して、反復して」を繰り返しながら技術が身についていくことがほとんどですから、地道にやっていきましょう。

 また、何かの大会にしろ発表会にしろ、そこまでの時間というものは限られていまし、ゆっくりならできるというテンポのままで本番もやっていいかというと、そうはならないのが現実です。
 その時期に間に合わせることができるよう、計画性を持って個人の練習スケジュールを立てて管理していく必要があるでしょう。

 

➄「ここからここまで」と提示された範囲が長すぎるとできない
 できる範囲で短く区切ってみることです。
 反復練習の一区切りが8小節で、それが難しいというのなら4小節、それがまだ長くて無理なら2小節、というように短くしていくと良いです。

 その中で、できる部分とできない部分を見つけ、できない部分や躓いてしまう部分を重点的に反復する。
 できたら少しずつ繋げていき、長く演奏できるようにしていくとよいでしょう。

 

⑥人前でやるとできない
 まずは一人で誰にも見られていない状態で、落ち着いてできるようにする。
 公共施設の個人練習室でも、河川敷の誰もいない所でも、楽器演奏可のカラオケボックスなどでも、一人で練習できる場所を探してみて、思う存分練習してみると良いでしょう。

 慣れてきたら自分自身を動画に撮ったり録音して、その様子を確認してみるのもよいでしょう。
 それにも慣れてきたら、気の許せる人を一人選んで見てもらうとよいです。

 

⑦失敗するのが怖くてできない
 始めの頃や練習の段階でたくさん失敗しておくとよいです。
 みんな、本番を想定して正確に上手に演奏できるようにこだわりを持って練習するかと思いますが、その一方で、失敗はつきものであり、どのくらいの短さでリカバリーできるかということを短縮することも立派な練習です。

 最初のうちは誰にとっても「失敗はつきもの」なのです。
 失敗すれば、うまくいかなかったことや、うまくいくための材料が見えてきます。
 また、失敗からどう立ち直るのか、どう持ち直して元の流れに戻すのかという「リカバリー」について対策しておくことももまた、立派な練習です。

 

⑧うまくいかない状況を想像して、それを増幅してしまい、体が動かない。
 前項と似ているかもしれませんが、既にうまくいっている人で協力してくれる人に補助してもらうとよいです。
 「他の人の中にはできている人もいるのだから、自分にだってできる」という気持ちをもってやっていくと良いです。
 「世界で自分だけができない」なんてことはないですから、慣れてきたら補助を減らしつつ、少しずつ自分でできる量を増やしていくとよいです。

 また、オーバーワークや過度の疲労を感じる時は、休息や睡眠を少し多めにとるとよいでしょう。
 たくさん練習するのは良いことですが、自分の体を自分で管理できてこそ、音も周りの人と会わせることができます。
 何事もやり過ぎのまま突っ走らずに、適度に休息を取った方が継続できます。