本番に弱い人が少しでも本番に強くなるには


 芸術でもスポーツでも何でも、本番は今までとは環境が異なるのだから、多少の緊張感はあるだろうがそこにとらわれ過ぎないことである。
 また、普段の練習や取り組みの段階から楽しんでおき、その楽しさが土台にあった上で本番に臨めるようにするとよいだろう。

 本番で発揮する実力について、最もパフォーマンスが高い状態が発揮できるのは、緊張とリラックスの対比が「7:3」や「8:2」くらいで混在している状態の方が適度に脱力できるので、「10:0」でガチガチに緊張してしまうよりは良いだろう。
 この感覚の割合には個人差はあるが、力み過ぎずに無駄な力も抜ける丁度良いところを普段から探っておくことだ。
 ちなみに、高いパフォーマンスの状態を上手に作り出すために、童話の北風と太陽のようなアプローチの仕方の違いがあるように、人のモチベーションにも二通りの方法があると言われている。


 ①ドーパミンに由来するもの
  北風と太陽で言ったら太陽。
  楽しさ、褒める、ご褒美といったものに動機付けされると言われる。

 ②ノルアドレナリンに由来するもの
  北風と太陽で行ったら北風。
  厳しさや恐怖に動機付けされると言われる。


 普段の練習の時から恐怖で指導されると常に失敗を恐れるようになり、本番で本当に失敗してしまう可能性が高まってしまう。
 それよりも楽しさを土台にやったほうが、気負いがなく自然体でいられる。
 もっとも、部活動などでは学生が先生を選ぶことはほぼ不可能だし、もちろん顧問の先生や指導者の側にとっても「伸ばし方」や「持っていき方」や「戦略」というものもあるのだろうが、ここではその点については述べない。

 「緊張」、「不安」、「恐怖」は扁桃体の興奮によるものだが、ノルアドレナリンの分泌でもあり、科学としては同じ現象のうちに入るそうだ。
 緊張が高まると不安に、不安が高まると恐怖になっていく、と考えるとわかりやすいかと思う。

 これらのような考えもあることを知った上で、本番で役立ちそうな基本的な考え方を以下に三点記した。
 この他にも、本番前に「好きな音楽を聴いて集中する」とか「ルーティンを作る」などというようなことをやるのは、どの世代でも割と普通に言われているよくある話だが、今10代や20代の若いスポーツ選手、オリンピック選手、棋士など最前線で活躍している人達から学び、自分が知らないやり方や法則、どんな共通点があるか、そもそもの基礎作りのやり方、などを探ってみてもよいだろう。

 

①本番でも今まで通り普通にやる
 本番に強くなるための唯一の方法は、これまでやってきたことを「普通」としてその力を発揮するということである。
 そうすればリラックスもできるし、そもそも積み上げてきたものがレベルの高い物であれば結果も出やすくなるからだ。

 これは芸術やスポーツの大会に限らず、試験やプレゼンなどの本番であっても当たり前のことなのだが、当日になっていきなり実力が何倍も上がることはない。
 本番で何か特別なことをやろうとしてもさらに緊張するだけだし、漫画や映画やゲームなどのスーパーヒーローのような潜在能力を発揮したり魔法が使えるようにはならないのだから、奇跡に期待するよりは、今まで通りの実力や打ち合わせ通りの連携を本番でもできるようにしておく方が現実的である。

 また、普段の練習で失敗した時も、どのようにリカバリーして立て直すかの段取りしておくとよい。
 特に集団で本番を迎える場合、「〇〇パートが補う」とか「後ろにいる人が補う」とか「〇秒以内に元の状態に復帰する」などを決めておけば、普段の練習から本番を想定した状態で取り組むことができる。
 もちろん、ミスなく成功する確率が上がるよう腕を磨いておくに越したことはない。

 

②本番までに身に付けたことを振り返る
 本番で「緊張する」と考えてしまう人がよく忘れてしまうことだが、たとえどんな結果で終えたとしても、本番に向けて準備してきた中で身につけた知識や技術は、自分の財産である。
 本番で良い結果が出なかったとか失敗したからといって、これまでの積み重ねが直ちにすべて無駄になり、ゼロまで退化してしまうわけではないのだ。

 「本番までの道のりが既に自分の価値になっている」と考えれば、緊張も和らぐだろう。
 また、もしこの事について本番のかなり手前の段階で気付けていれば、本番までの期間も個人の時間ももっと大切にするようになるだろうし、本番での成功の可能性自体も一段と増すだろう。

 

③いつもと違う部分や変化や環境があることを知る
 本番の緊張を和らげる方法として、自分の内部に生じた生理的、感情的な変化や状態を意識すると、「自信」や「意欲の向上」や「自己効力感の形成」に繋がると言われる。
 例えば、音楽やスポーツの本番前などで緊張して脈が速くなっている場合でも、「そういう変化が出ている。それがなければいつも通りの自分だ。」という意識を持つことで、本番での行動に向けて冷静さを取り戻し、自信が生まれるきっかけにつながるということである。

 他に、「環境の違いを比較して認識する(しておく)」、などがある。
 音楽なら、本番の会場は音の反響がいつもと違うので、要所は必ず指揮者に合わせる。
 陸上なら、本番の競技場の地面の感覚は、ゴムチップが混ざっているのでいつも足の感覚が変わる。
 というようなことがあるだろう。

 このように、当日の本番前までに調べて知っておいたり、感覚をつかんでおきたいことがあればやっておく。
 また、事前に下見をしたり、過去や前回の経験があれば思い返してイメージトレーニングをしておくのもよい。

 ちなみに、「本番当日には大勢の観客がいる」というような圧倒的な違いについては、他のライバル達にとっても同じことである。
 そこはむしろ、予選などの小さな規模の大会では得られなかった経験として、「やりがいがある」と直前に奮起させたり、「滅多に無いすごい舞台でやり切った」と今後の自信に繋げたらよいだろう。

 何の想像も、計画も、準備も、対策もしないままで、上手くいくことはまずないし、丸腰で臨んで良いはずもない。
 無策丸腰で場に臨めば、咄嗟におきたほんの小さな出来事で頭の中が真っ白になって、失敗に終わる可能性が上がってしまうだけなのである。