二択思考の人が勝負弱くなってしまうことについて

 秋から冬にかけてのこの時期は、音楽系の習い事や部活動の人たちは、大会や、コンクールや、自分達の団体の演奏会といった、何らかの本番を迎えることが多いことだろう。
 そしてその本番が近づくにつれて、徐々に不安になったり緊張してきたりもすることだろう。
 誰だってたった一度きりの本番は、是が非にも成功させたいものだから、是非とも頑張って欲しいものである。

 さて、二択思考、つまり「成功か失敗か」などの二者択一で物事を判断する傾向が高い人は、ちょっとうまくいかなかったことやたった一つの小さな失敗など、ほんのわずかなミスのようなことをとにかく責めるものだ。
 そうすると、いわゆる自己肯定感が下がり、下がったことでさらにネガティブになり、もっと細かいところが気になるようになる。
 ミスをしないように自分の水準を上げていくことは大変良い心掛けだと思うが、考え過ぎや気にし過ぎは良くなく、これではただの悪循環になりかねない。

 音楽を演奏する人の中には、必ずどこかで一度は聞いたことがあると思うが、「リカバリー」という言葉がある。
 ミスやエラーが発生した時に、直ちに原状復帰をすることができる力の意味合いで使われることが多い。
 音楽の演奏は生ものだし、しかも人間がやることなので、多少の失敗や歪みというものはつきものなのである。

 まして、先に挙げた本番に臨むような方々(筆者も含めて)は、熟年のプロフェッショナルでないということであれば、どこかでミスする確率もその規模も大きくなることがあるだろう。
 こういう時に備えて、「ミスした時には2小節以内には現状復帰する」とか、「次のフレーズの頭には必ず入り直すことで整える」というようなことを事前に決めておき、ミスをした時にはすぐさまリカバリーの練習として、その行動切り替えられるようにしておくことである。

 もちろん、失敗しないに越したことはないが、人間のやることだからどうしても環境や体調によってその日の感覚が変わったり、場数の経験値や当日の観客数などによって緊張度合いも変わってくるものだから、多少のミスやいつもと違う行動をしてしまう可能性はどうしても出てくる。

 だから、「リカバリー」という考え方も必要になってくる。
 さらに、「失敗したらどうしよう」ではなく「失敗したらどう切り抜けるか」を考えておき、上手くこなすことだけに挑み続ける練習をするのではなく、「間違った時にどうするか」に実際に対処できたという経験も必要になるのである(無理矢理、故意にそのシーンを作って慣れる必要はない)。

 タイミングエラー、ど忘れ、混乱、忘れ物、段取り間違い、頭の中が真っ白、誰かの間違いの巻き添えを食うなど、様々な要因はあるだろうが、こういうのを経験したり、乗り越えたり、上手く捌いたり、時には、対処できたはいいけど悔しい思いをしたり恥をかいたりすることも、どこかでは必要になることだろう。
 もちろん大切な本番や勝負の時に失敗を望んでいるわけではないが、せめて「自分を責めないこと」と「リカバリーをすること」くらいは、事前にある程度経験して、対策を立てて本番に臨めるようにしていくと、二択思考も勝負弱さも自然と減っていくようになるのである。