大人からの質問に子供が答えた時は、必ず一旦受け止める


 音楽指導をしていると、相手が小学生や中学生であってもこちらから質問をして、例えば「理解度を確認する」といったことをする場合があります。
 ちなみに、大人は親、教師、指導者など、子供は生徒などでも当てはまるでしょう。

 大人からの質問に対して子供が答える時というのは、質問に対する解答だけでなく、実際には二つのことを答えていることが多いです。
 この時に大人側がどう対応するかで、相手との信頼関係が深まっていくかどうかがと大きく変わってきます。
 子供が二つのことを答えていると言うのは、次の二点です。

  ①回答の内容そのもの
  ②その子の中にある感情

 多くの大人は①についてばかりで、質問に対する回答の内容の正誤や解説を扱うことがほとんどかもしれません。
 もしそうであっても、それは仕方のないことです。
 大人だって、何かを解決したり、役に立ちたかったり、これから後の流れを上手にもっていったりするためには、それなりに情報が必要だからです。

 

 ただ、子供は次のようなことも考えているはずです。
 これを読んでいる皆さんは、今は大人になっている人がほとんどでしょうが、子供の頃はそうだったのではないでしょうか。

 「自分だけがこの答えだったらどうしよう」
 「周りと違っていたらどうしよう」
 「この答えで合っているかすごく不安」
 「この答えで間違っていたら恥ずかしいし、怒られるんじゃないか」

 身に覚えはあったでしょうか?
 答えたことが合っているかどうかということは、もちろん外してはならない大切なことです。
 ところが、実際には②が①よりも先に発生しており、①の正誤だけに対応してしまうと、子供の感情を見落としてしまうことに繋がります。

 ちなみに、「この答えで合っているか」という言葉を使ってそのように表現していても、質問に対して自分の中で出した答えの他にも「周囲と比べて自分の考えがどうなのか」というようなことも考えて不安になっていたりします。
 さらにその上で、実は「自分は変なことを言っていないかな?」という言葉の方が核心であったりします。

 また、「その子の中にある感情」とは、例えば、怯えている、恥ずかしく思う、自信がないなどです。
 或いは、言葉がまとまらず困惑していたり、訳もなく緊張したり、場数がなくてただ上がっているだけかもしれません。

 もちろん、時と場合に因りますし、時間には限りがありますし、指示や号令をかけて全体を動かす時もあるでしょうから「常にそうしなさい」というわけではありませんが、少なくとも「このように思った」という感情を大切に受け止めてあげることで、「自分の答えに自信を持った」とか、「次も質問しやすくなった」ということに発展させることができるでしょう。

 

 子供は、一つ自信がついたり、何かの時に質問しやすい関係を築けると、その後の成長度合いも確実に変わってきます。
 だから、「ああ、確かにそうだね」とか「なるほど、そう考えたんだね」と、一旦受け止めることが大事なのです。
 大人側の進行ペースもあるので無理やりやるわけにもいきませんが、たまには、時間に余裕がのある時だけでも、正誤についてだけでなくそれ以外の情報も引き出して受け止めてあげると良いのではないかと思います。

 正直なところ、厳しさや恐怖でいっぺんに大勢を統率する先生(学校の先生に限らず)も、基礎や型や躾などを徹底的にやる先生も当然いらっしゃいますし、筆者も出会ってきましたし、自分がそのように厳しく接することもありました。
 でも、厳しいのも、怖いのも、いちいち細かいのも、その一役を買って出ているだけなのです。
 見るところは、ちゃんと見ていて、伸ばしてあげたいのです。

 子供が初心者のうちや、一年間の活動の最初のうちや、基礎を積み重ねているうちなど、出来れば早い時期や時間に余裕のある時などを使って、どんどんやり取りをして知識を付けてもらって良好な関係を作っていかれれば、その後の結果は必ずと言っていいほどより良いものに繋がっていきます。
 くどいようですが、そしてなかなか難しいことですが、回答された内容の正誤だけで終わらせず、その子の中にある感情も必ず一旦受け止めて、少しは読み取って認めてあげるようにしていくことが大切です。
 正誤やその解説も大事ですが、それらについて伝えるのはその後でも十分できることなのです。