簡単に「自分はヘタだ」と思わない、言わないために


 音楽指導をしていると、「上手か下手か」を気にする人によく出会います。
 そう思うこと自体は誰にでもよくある普通のことだと思うのですが、その人が「自分は上手くなるか?」と考えた時に、「今はヘタクソで、理想のところまで行ったら上手」というような括りに囚われてしまって、0か100かの考えに陥ってしまう傾向が多いように感じます。

 その考え、つまり「ヘタな自分の状態がずっと続くかもしれない」と考えるよりも、毎日、毎回、「昨日より良くする」と考えた方が良いでしょう。
 それよりも、「自分はこのところ上達してきた」とか、「今日は前回より調子がいい」、「今は先月よりも良くなっている」というように考えたり感じる方が、気の持ちようとしても、自分自身の向き合い方と過去からの継続度合いをより良く向上させていくためにも良いのです。

 そこを、「ヘタクソ」とか「実力不足」という言葉ばかり使うのは、良いことではありません。
 なぜならば、自分で自分を下げる言葉というものは、まるで呪文かのように使い勝手が良いからです。
 簡単に言いやすいし、たくさん反復できてしまうから、よりそのように思い込んでしまいやすく、結果としてその言葉の通りのイマイチな状態が、それほど時間をかけずに実現してしまっているというわけです。
 


 誰だって、やっているからには上手くなりたいのでしょう?
 だったら、簡単に自分で自分を下げてはいけません。
 自分に対して言ったり思ったりする言葉だったら、多少強気で言ったって、図々しくたって気にする必要はありません。

 せめて、「昨日はここの小節をノーミスで演奏できるまでに20回繰り返したけど、今日は10回目でできた。昨日より調子が良い。」くらいのことは言ったり思ったりして、「今日は調子が良い」というところに焦点を当てるように言葉にして、行動していくのです。
 そうしていくことで、脳でも「調子が良くなっている」と判断や認識をして、それを当たり前にしたり、さらに調子が良くなっていくようにしていこうとするのです。
 だから、自分で一方的に視野を狭めて「自分はダメだ、ヘタクソだ」と思い込んでいたら、実際にそうなってしまって能力も開花しないし、日頃のパフォーマンスも十分に発揮できるはずもないのです。

 言葉の使い方や考え方を変えるだけで、気分も良くなるし、気持ちも前向きに改善するし、悩みも一つずつ減っていくことにつながっていきます。
 言葉は自己暗示としても働くので、「自分はヘタクソだ」と言えば言うほど、思えば思うほど、その状態を自ら固定するようになり、ドツボにハマっていくのです。
 だから、これからは「一つでも、少しでも、良くなっている点を自分で見つける」ことをするようにして、それと同時にネガティブな言葉を使う回数も徐々に減らしていくことが大切です。

 

 先の例で挙げたことですが、実際のところ「昨日は成功するのに20回かかっていたことが、今日は10回でできた」としたら、それは素晴らしい進歩です。
 普通は、やってる本人は上手くいかないのが何回も続けばそれなりにヘコむものだし、成功率を出そうとすれば失敗の回数も数えることにもなるので落ち込んでくるし、何回も同じ箇所で同じ失敗を繰り返していたら、癇癪の一つくらい起こしても不思議じゃありません。
 しかし、だからこそ「今日は調子が良い」とか「ここは昨日より良くなってきている」という点を自分で見つけ出す力をつけることと、その自分を認めてあげる回数を増やしていった方が良いのです。

 自分からそのように考え方を変えて上達していくことができれば、それは他の人にも良い影響を与えるきっかけにもなります。
 誰か一人でも「ああ、そういう風に考えれば前向きに練習に打ち込めるよね、自分もやってみよう。」となれば、仲間に前向きな人が増えていくことになります。
 それが5人10人と広がっていけば、集団としてもかなり変わってくることになります。

 自分で思っていることや感じていることをアウトプットをすることは、その記憶も脳に残りやすくなるため、演奏やそれに伴う技術や表現力だけでなく、前向きな気持ちで考えたり言葉にする力を養いながら、練習に向き合うことそのものの力も強化されていきます。
 こうしたことを続けていくことが「気持ちも明るく自分も技術も良くなっていくためのトレーニングの一つになる」と考えれば、また次に起きてくる事柄に対しても、引き続き、今までよりも前向きに取り組んでいこうとする気持ちと行動を積み重ねていくことに繋がるのです。