今の段階で一番良いと思う教えを得る方法

 
 音楽指導に行くと、本番の1、2週間前に初めて呼ばれて、そのたった一回の数時間の中で、「一番からは少し程遠いかな」という仕上がりのバンドに「一番を取れるようにして欲しい」と言われることがあります。
 また、正しい指導、本当の指導というものを要求されることがあります。
 できるだけやんわりとした表現にしましたが、こんな言い方をして申し訳ございません。
 
 さて、その仰る通りの正しい指導を最初の一手目からできるかと言えば、その前に、多分そんなものはないでしょう。
 最終的にはあるのかも知れませんが、それは一番をとるためのレベルに至った時に判断できるものだと思います。
 
 指導においても、「その人ができなかったことができるようになった」とか、「自分からその技術を使って行動できるようになった」とか、「誰から見ても明らかに今までよりも上手になった」とか、そのくらいの違いが出てきた時にその指導の効果が分かるものです。
 例えば、「このやり方や伝え方がこの人にとって一番良い指導方法だったのだ」というのが分かるし、指導の仕方も状況やレベルに応じてどんどん変わっていきます。
 そうして相手個人や、パートやセクション、全体の状態を見ながらどんどん変わっていくのが普通なのです。
 
 だから「最初の頃に言われていたことと、1年後に言われたことが違う」とか、「最初の頃に言われていたことと、OBや他の指導者に言われたことが違う」というのは当たり前です(その団体さんの伝統はあるのでしょうが)。
 そこは心配するところではなく、今よりももっと良くなるためにその時の状態を見て現状を把握して、その時点で最も適切と思える指示を言ったり課題を出したりするのです。
 もちろん、一番最初に指導計画やスケジュール感を把握するということはありますが。
 
 だって、指導者のレベルの人から初心者のレベルの人に「こうやれ」と言って、「はい、分かりました」って、急に全部できるようにならないですよね?
 音感の面で言っても、精神的な余裕や神経の研ぎ澄ませ方の面で言っても、私には聞こえていて、あなたにはまだ聞こえていない音というのもきっとあるでしょう。
 別に音楽に限ったことではなく、段階を踏んだり、相手の理解度や熟練度を見ながら進めていく必要があるのは自然なことなのです。
 
 
 
 指導すると言っても、どんなに有名な先生でも最初の一手目から「この人にはこの方法が効く」というのは一人一人に対しては分からないでしょうし、その指導者なりに順番や方法というものがあるのだと思います。
 例えば「一番最初にこれをやる。成果が出なかったらこれをやる。その後はこうやっていくといいですよ。」ということが大体決まっていますし、指導をする方であれば、業界の共通知識として大体同じことを把握していますから、よほど経験の違いがなければ大体同じような対応となるでしょう。
 
 ただ、その指導者の方の歩んできた環境はそれぞれ異なるため、専門楽器や得手不得手の他にも、言葉や伝え方、奏法のスタイル、重きを置く点、細かな優先順位などは多少は異なるところがあるでしょう。
 仮に、少し難易度の高い演奏表現があって、それをするには基礎練習のA、B、Cを元に応用させるというものであった場合、その中のどこから土台を固めていくかはその指導者によって変わってくるとは思いますが、その演奏表現をさせるのに必要な技術というものは大体決まっていて、指導者の方も何らかの形でクリアはしてきているものなのです。
 
 ですから、基本的にはある一定のレベルの指導者の中で誰が良いかというのは、まぁそんなに変わらないというのが筆者個人の考えです。
 もう少し言えば、技術は最低限あるとして、コミュニケーション能力と、近づきやすくて話しかけやすいなどの雰囲気作りはかなり大切と感じています。
 
 本当に素晴らしい先生というのは確かにいるのでしょうが、恐らくその先生は引っ張りだこで忙しいでしょうから年に1回、運が良ければ2回来てもらえれば御の字でしょう。
 どんな業界でもそうでしょうが、いい先生のところには依頼も多く来るので、当然それぞれの依頼者に対応できる時間は少なくなります。
 
 一方で駆け出しの指導者の先生なら、多くの場合は依頼も少ないので、じっくり時間をかけて何度も見てもらえるかもしれません。
 素晴らしい先生だったら一時間で教えてくれることが二時間かかるかもしれませんが、できるようになるまで根気強く向き合ってくれるかもしれません。
 もしかしたら質問はメッセージなどでならいつでも受けてくれるかもしれませんし、若くてITに明るい先生ならオンライン対応もできるかもしれません。
 
 そうすると、それはそれで、あなたやあなたの団体にとってより良い結果をもたらすことに繋がるかもしれません。
 それって、後になってから「自分や自分達に合った正しい指導だった」ということになる可能性は高そうです。
 
 良い指導者や本当の指導者から教えを乞いたいという気持ちは分かります。
 しかし、実際問題として本当に素晴らしい先生は引っ張りだこでしょうし、今まで長い間お付き合いのある指導先というのもあるでしょうから、まずは自分のところに来てもらうこと自体が最初のハードルとなるでしょう。
 
 そうすると、教わる側の満足度も最初の希望の通りには得られにくいでしょう。
 となると、正しい指導や本当の指導を受けられるかというのは、どのような指導者と向き合っても、答えを出すのはなかなか難しいのではないでしょうか。
 
 
 
 さて、今現在の時点で、今の実力でいいから、あなたが何か思っていたり上手くいかずに悩んでいることを正直に話したり、今できる限りの最良の形で言葉にして質問することが、指導者に対してできているでしょうか。
 自分が思っていることは正直に話せた方が良いし、質問もできた方が良いです。
 
 こんなことを偉そうに言うのは大変恐縮ですが、しかし言っておかなければなりませんが、指導者側からの目線で考えると、相手に対して正しい情報が多ければ多いほど高い精度で指導することができます。
 その時点で最も適切な技術や考え方を伝えたり、課題を出すことができるでしょう。
 
 こういうことを2つや3つしか話さなかった場合と、10個も20個も話すことができた場合と、どちらの方がより良い判断をすることができるでしょうか。
 また、どちらの方が皆さんにより良い成果をもたらすことができるでしょうか。
 
 確実に後者の方です。
 解決の手掛かりはたくさんあった方がよいのです。
 「こんなことを言ったら嫌がられるんじゃないか」とか、「忙しそうだから」、「前も聞いたと思うから」、と遠慮して言わなかったりする人がいますが、それはその指導者の方に対して、解決の手がかりを自ら減らしていっているということになります。
 
 また、今できる相談なり質問なりコミュニケーションを怠ってしまったら、結果として適切でない指導をされる確率も高くなってしまいます。
 その他にも、いつも一人でやる時は10回中8回は成功しているのに、指導で見てもらう日は緊張して10回中2回しか成功していなかったら、「なんでそうなってしまうのか」を聞いておかないと、運が悪ければ、10回中2回しか成功できない人に対するレベルの指導しかされないという、指導のすれ違いにもつながります。
 
 
 
 筆者は、超一流団体とかスーパー高校生級の部活動とか、そうした花形の指導ばかりをずっとしていたということはありませんが、今では小学生や中学生の「初めてやる方や初めて楽器に触る方」を対象にしていることが増えてきましたので、一番最初の時点で「最も良い方法は何か」と悩む人には多く出会っていると思います。
 
 子供というものは素直ですから、しっかりコミュニケーションを取って信頼関係を築いていくと、上手く言葉や単語を扱うことができなくてもその時点でできることを駆使して、その段階においてはかなりしっかりとした質問をしてくるようになります。
 そして彼らなりに解決に持っていこうと努力をして、その後見事に解決に持っていくのを間近で見て、一緒に喜んでいます。
 
 (便宜上そういう言い方をしますが)もし正しい指導や本当の指導というのを受けたいのであれば、できるだけあなたの抱えている情報の多くを指導してくれる方に伝え(個人情報のことじゃないです)、遠慮せずに素直にやり取りしていくということが、あなたにとって今すぐできることでしょう。
 
 困っていることがあれば相談したり、上手くいかないところがあれば素直に言ったり質問したりするというのが、その時点で一番良い指導やアドバイスを受けるための最も良い方法なのではないでしょうか。