「朱に交われば赤くなる」という言葉があるが、人間は、周囲の人の行動、考え方、発想、過ごし方などに間違いなく影響を受けるものである。
自分の周りの人が何かの勉強や練習をよくやっている人達ならば自分もそうなっていくし、ゲームする人ばかりに囲まれていたら自分もそうなっていくのだ。
こうしたことは、心理学では「モデリング」と言われており、赤ちゃんが親の行動や言葉を真似るのと同じように、人間というものは見たものを真似る習性があるのだ。
なぜならば、その習性がないと人は成長していかないからである。
特に、自分が尊敬していたり、好きだったり、憧れたりしている人の行動であれば無意識に真似る傾向が高い。
しかし、その反対に嫌いな人や苦手な人のものは真似ない。
例えば、普段会っている友達や遊び友達には、少なからず好意を抱いているものである。
だから、いつも過ごしている人たちからの影響は受けやすいということもあるのだが、遊び以外のことでも、例えば職場の中で仕事のできる人がいて、あなたがその人のことを凄いと思っているのであれば、そのやり方を真似たりすることもあるだろう。
その点から見ても、やはり影響を受けていると言える。
次に、周囲から影響を受けるという点について言えば、心理学においては「同属性の法則」と呼ばれる、人は自分と共通点のある人と一緒にいると楽しく感じたり仲良くしたがる傾向を持つ。
また、自分の友達という親しい関係では、育ち、好み、収入、同じ学校や会社、などの共通点を持つ場合が多い。
一方で、自分や自分たちとは異なる、いわゆる異質の人と出会うことは少なく、そういう人たちと仲良くなる可能性も少ないため、自分と同じレベルの人たちと仲良くなる傾向がある。
そうした見方で考えると、普通に生活をしていると、自分より秀でた人は周りにはそれほどいないことになる。
仮に自分が地域の小さな会社に勤めているとしたら、世界を股にかけてバリバリ働くグローバルな超エリート社員はまずいないだろう。
また、そのように精力的に働く人が周りにいないから、真似をしたくても真似ようがないということになる。
これがサラリーマンとして働いていて、周りもサラリーマンばかりというのであれば、起業を経験している人などほとんど見かけないだろう。
そうなってくると、起業するにはどんなことをするのか、起業後にどのくらいの収入を得ているのか、自由な時間があるのか、どのようなリスクがあるのか、などということはほとんど知らないのだ。
ネットなどで調べたり間接的な体験談などは聞けたとしても、本人から生の体験談を聞ける機会というのは意外とないものなのだ。
人は、他の人から自然と学ぶことができるが、しかしいざ自分の周囲を見回してみると、大体は同じレベルの人たちが多い。
だから、普通に生活をしていれば今の環境のこと以外のことを学ぶ機会はまずない。
だからこそ、今いる環境から小さな一歩でも外に踏み出して、二歩三歩先を行く人の話を聞いたり実際に会ったりする必要があるのだ。
自分自身を次の段階に押し上げようとするために、例えば、自分の成長を計る尺度のためにも、年収を上げたいとかお金持ちになりたいということを思いつき、勉強のために本を読むとする。
しかし、ここで年収300万円もいかない人が億万長者や世界の大富豪の話を読んでも、現状を当てはめてみると大した参考にならないのだ。
そりゃあ全く価値がないこととは言わないし、マインドセットという考えも分かるのだが、それはかなり先のステップになることだろう。
それよりは、副業を始めて10万円稼いだり、プチ起業をしてみたり、週末ボランティアから仕事や収入に繋げた人の話の方がよほど参考になるだろう。
もしも、変わりたいとか成長したいとか思っているならば、自分よりも数歩先を行く人達のことを知って、その人達が所属しているコミュニティに入ることができれば、同じような人たちがたくさんいるから、交流もできるし具体的なやり方も分かってくるのだ。
その中で、自分よりも若くして頑張っている人や、半年ぐらいで結果を出している人が周囲にいるようになると、自分にもできると思えるようになる。
そして、周囲の人たちがやっている方法を取り入れようと思うようになるのである。
ただし、大富豪が自分のすぐ側にいて交流もあるというのなら、当然その人を真似た方がよいのは言うまでもない。
これが「モデリング」であり、それを上手くやるためには、自分よりも少し先を行く人たちが多くいるコミュニティに入るというだけで良いのだが、それをやらなかったり面倒くさがったりして、知識だけ入れてやらない人が多い。
行ってみれば意外とフレンドリーな雰囲気であったり、楽しみながら色々な情報を得られる機会にもなる。
いきなり一発目でマッチさせることは難しいかもしれないが、このように自分に合ったコミュニティに参加することはとても重要である。
要は、自分をより良い環境に置くということである。
それも、自分がそうなりたいと思っている人たちが多くいる コミュニティに所属する。
しかも、それは一生のうちに一つしか入れないわけではないのだ。
自分の所属するコミュニティについては、全てが「自分を成長させる」ものだけに限定する必要はないだろう。
なぜなら、成長して自分の理想に近づきたいとしているならば、ほとんどの場合は経験だけでなく、物の見方も、考え方も、発想の仕方も、段取りの組み方も、扱える武器も、得意分野も、圧倒的に備わっていないからだ。
そして、人となり、身の処し方、心の機微、物事や他人の心の感じ方などについては、趣味やサークルの方が意外と身になることもあるからだ。
普通の人は会社や学校など一つしかないかもしれないが、趣味やサークル活動などは心が癒される活動にもなり得る。
また、仲間の気持ちや、精神性、芸術性、その物事の成り立ちや奥深さ、背景などを見れたりしやすいし、お金にならなくとも好きだから打ち込んでいる人たちの熱意や探求心にも触れることができる。
それは、自己成長というところからは多少は離れてしまうかもしれないが、まあ普通だったら友達が学校や会社の人だけだと落ち着かないし寂しいだろうから、普段と違った趣味仲間などと話すことで、かえってリラックスできたり息抜きできたりするくらいで丁度よいのだ。
ちなみに、筆者の音楽経験でも似たようなものがある。
部活動、趣味・習い事、サークル、ボランティアなどから始まっていったが、結局は本場で学びたく、渡米となった。
その後音楽を教えたり書くようになってくると、インストラクターや指導者の集まり、何らかの資格を目指す人の集まり、強豪を受け持つ指導者や先生の集まり、作曲家や編曲家の集まり、審査員や運営の方々の集まり、など、様々経験していった。
まだまだ目指すところにはたどり着けていないが、やはりその場に身を置くと気持ちも引き締まるし、物の見方、考え方、聴き方、表現の仕方、伝え方なども、確実に変わるものだ。
筆者の場合、その場に身を置いてみると、最初は、「漫画や映画などで言うなら、自分以外の人達は物凄い能力や必殺技を持つキャラクター達で、自分一人だけが生身の人間。」という感覚だった。
実際、凄い人だと思っていた人達がその通り凄い人達で、自分のすぐ横にいるのだ。
しかし、それでよいのである。
とりあえず、「その場」に行ってみようとして、実際に行ってみることが大切なのだ。
「生身の人間ですが、お邪魔します」というくらいの気持ちで溶け込んでいけばよいのだ。
多少キツくても継続していくうちに慣れていくし、食らいついていれば知らない間に自分自身も成長していくのだ。
ところで、今いる音楽の小さなコミュニティには入って数年が経過したが、残念ながら筆者はまだ生身の人間のままである。
ただし不思議なことに、もの凄い能力も必殺技も使えないままなのに物語の最終話まで生き残ったり、その後のスピンオフ作品にも少し登場したり、シーズン2にもなぜかいる、という程度の生身の人間には成長しているのだ。
渡米の時もそうだったが、やはりその環境に身を置くことは、絶対に外してはならない大切なことなのだ。
話を戻すが、自己成長に限定して言うのであれば、やはり何かのコミュニティに所属して環境を変えることだ。
そして、例えば勉強で言うなら、勉強会→地域の塾→有名進学塾というように、無料よりはお金がかかってしまうだろうが、大抵は金額の高いものの方がレベルが高いものである。
自分一人でやるペース以上に成長を加速させるためには、より高いコミュニティに所属するということを、できる範囲のところからやっていくために、まずはその一歩目を踏み出すことである。