勝ち癖をつけるためにはどうしたらよいか

 「大事なのは勝ち負けじゃない、なんて言っている人は、たいてい負けるわ。」
 (マルティナ・ナブラチロワ)


 50代でも現役プレーヤーとして活躍していた、女子プロテニスのマルティナ・ナブラチロワの言葉です。
 生きていれば「どうしても勝ちたい」とか「ここは譲れない」というような、勝負の世界が突然訪れる時があります。
 そういう時に、ちゃんと切り替えられずに何となくなあなあになってしまったり、最終的に優しさが出て譲ってしまう自分が出てしまわないようにするには、どのように考えればよいでしょうか。

 

1. 自分で決めたことを守る × 報酬系の脳を強くする
 自分で自分の、方向性、目標、計画、自己イメージ、価値観など、自分の内面にかかわることをを決めて意識していくということです。
 そして、小さな成功体験を重ねて、達成した時の快感を感じることが大切です。
 自分のこともよく分かっていないのに、少しくらいのコントロールすらできないのに、周りにばかり意識を向けて、しかも勝ちたいなどというのはチグハグなのです。

 達成した時の快感は脳の報酬とも言われますが、その報酬系の脳を強くする理想のサイクルは、次の順番と言われています。

 ①小さな成功体験をする
 ②報酬系が強化される
 ③快感を得やすくなる(ドーパミンが分泌されやすくなる)
 ④自発的な努力をするようになる(=うまくこなすことが当たり前になる)


 例えば、日、週、月の目標を達成していくことで、次のような成長が見込めるでしょう。

 ・勝ち癖だけでなく、自分への自信も段取り力もつくようになる。
 ・繰り返すうちに、もう一歩高みを目指せるようになる。
 ・少しずつ自分に厳しくできるようになる(ただしいきなり過剰な負荷にならないように)。
 ・自分との約束を守れなければ、他人との約束も守れないことも分かってくる。


 今までの自分を変えようとすると、今よりももう少しだけ自分に厳しく生きる必要も出てきますので、自分をネガティブに締め付けない程度に次のような言葉を参考にするとよいでしょう。

 ・本気で人生を生きてみようとする
 ・リスクもとる(安全策ばかりやらない)
 ・苦しい方、苦労する方を選ぶ
 ・自分を追い込む状況を作ってみる
 ・他人に厳しく言えないのは自分に甘いから


 別に、無理にしなくてもよいことなのですが、勝ち癖について気にするということは、大抵は勝負の世界での出来事に向き合うことになりますので、そのための癖付けをする必要があるのです。
 自分を追い込まなくたって、勝負の世界ではない所ではうまくいく人はうまくいくものですが、どこで勝ち負けが分かれるのかを考えたり、勝つためにはどうすればよいかを考えて実行に移し、それが十分にこなせるようになれなければ、一旦勝ってみるということすら難しいでしょう。

 


2. 形から入る
 形から入ることは、自己イメージの形成にもつながります。
 また、強い、賢いイメージ等を持つことが、ストレスホルモン(コルチゾール)の値を下げることが分かってきています。
 決まったポーズや構えをとるだけでも効果があるので、事前に色々と物や環境を揃えなくてもよくなります。

 勝ち癖というからには勝負をするのですから、それなりに姿勢や構えや型をはじめ、考え方や戦略に至るまで必要な知識や技術があります。
 ですから、うまくいっている人や結果を出した人を真似するにしても、やはり形から入るという考え方はそれなりに重要になってきます。

 なお、ストレスホルモンが過剰に分泌され続けると、コルチゾールの製造元である副腎が疲弊するとも言われ、以下に影響が出やすいとされます。

 ・男性ホルモン濃度が下がる。
 ・海馬が委縮して記憶力が下がる。
 ・勝負強さ、攻撃性、やる気が下がる

 


3. 自分は運がよいと思うようにする
 実際に運が良かろうが悪かろうが、自分の中でそう決めることです。
 もし何かうまくいかないことがあっても「ありがたいフィードバックの材料を得た」くらいに考え、不安要因が増えたとは考えないようにすることです。

 つまり、仮に「先のことを不安に思う」ことがあれば、それは見方を変えれば「慎重さがある」ということだと考えるのです。
 そして、「だから、自分にその性質がそもそも備わっているということは、運がよいのだ」と思うようにするのです。

 これは、努力逆転の法則(努力をすればする程その努力と反対の結果になる)への対応をすることにも繋がります。
 つまり、「失敗するかも」とか「失敗したらどうしよう」と思って失敗しないように考えると、かえって失敗するようになる、という思い込みを防止できるようになるということです。


 ①不安の要因を分析すること
  どういうときに失敗するかを見つけて対策します。

 ②不安を見える化すること
  「失敗したらこうしよう」に変えます。
  不安な点を明らかにすることで、回避、対処することができます。


 「成功しよう」、「勝利しよう」と思うと、そのイメージや意志が強くなればなるほどそうならなかった時の結果を想像する力も強く働いてしまうものです。
 ですから、「自分は運が良い」という心構えや立ち位置でいて、失敗を事前に回避したり早めに対処・リカバリーできるように対策しておくことが大切なのです。

 


4. 脳とセロトニンの関係を利用する
 脳には、緊張状態を示すβ波と、リラックス状態を示すα波という波形があり、人は目を閉じれば脳波がα波に切り替わる仕組みになっていると言われます。
 リラックス状態をうまく作れると、人間の精神にとって大切な、セロトニンという物質が脳の中で増加していきます。
 さらに、腹部には自律神経が張り巡らされているため、丹田に意識を集中して複式呼吸をすれば、その自律神経のバランスを整える効果があります。
 
 また、「頑張るぞ」と声を出して自分を励ますことは、前頭前野の機能を高め、脳の他の部分に対する意志の支配力を高める技術の一つと言わています。
 精神論や根性論などの精神訓話とは、全く次元が違う話ですので、興味があれば調べて参考にしてみるのもよいかと思います。

 さらに、セロトニン・トランスポーターという物質が脳の神経細胞の表面にあると言われ、これはセロトニンの濃度調節を行っている蛋白質で、セロトニンの分泌量を左右するとされています。
 セロトニン・トランスポーターは、日本人の7割が少ないと言われていて、つまり日本人の多くは不安になりがちな傾向にあるともとれます。
 多い人でも全体の2%程度と言われ、陽気な人、ギャンブラー、ハイリスク・ハイリターン傾向の人と言われています。

 ただし、自然な状態の時でも元々少ない人もいるでしょうし、総量もよく変わるものであって一定数値のまま全く変わらないというものではないので、自分が多いのか少ないのかを気にし過ぎる必要はないでしょう。

 また、科学は新しい事実が解明されて今までの説が変わるということも大いにありますから、現時点の結果で一喜一憂するよりは、学びを続けながら豊かな知見を持ち、いつでも自分にプラスになるよう働かせていく姿勢を持つことの方が大切だと言えます。