人間の脳は錯覚に陥ることがあり、例えば同じ量の飲み物を器に入れるとしても、その器の大きさやかたち、とりわけ長さや深さや色などで錯覚してしまい、その結果、過剰に飲み過ぎてしまったり満足できなかったりしてしまう。
このような錯覚は「バイアス」と呼ばれることもあり、バイアスとは、傾向、偏向、先入観といった、思考や判断に特定の偏りをもたらす思い込み要因や、得られる情報が偏っていることによる認識の歪みのことを意味する表現として使われている。
その種類には多くのものがあるが、このことを知らなかったり他人に利用されたりすることで、損をしたり、損をさせられたりしてしまうことになる。
対策としては「そのことについて知ること」しかないだろう。
基本的なものであってもバイアスについて知ることで、天才よりも優れた判断をすることや、より得をする生き方ができるようになっていくことに繋がるのである。
①現在バイアス
時間割引とも言われ、時間が現在よりも遠くなると、価値が低いと感じてしまうというものである。
例えば「1万円札3枚と1万円札5枚、どちらが欲しいですか?」と聞かれたら、誰でも1万円札5枚を欲しがるだろう。
ところが「今日なら1万円札3枚、2年後なら1万円札5枚、どちらが欲しいですか?」と聞かれたら、多くの人が今日1万円札3枚が欲しいと言う、というようなことである。
これをうまく活用しているのがクレジットカードである。
品物はすぐに手に入り、支払いは一か月以上先というようになることで、「良い品物を安く手に入れることができた」と脳は勘違いしてしまう。
だから、クレジットカードでの買い物ばかりしていると、浪費癖がつきやすいと言われている。
また、売り手はこの時間割引を熟知しているため、ローンを勧めたりもする。
このバイアスに陥りやすい人は、何十万円もするような商品を「月々5000円だから」とお得に感じ、購入してしまう。
知らない間に浪費癖がついて、財布の紐が緩くなってしまうのである。
②欲求ミス
ミスウォンティングとも呼ばれ、「大きな幸せは自分の手の届かないところにある」という錯覚のことである。
仮に大きな家を手に入れたとしても、実際には掃除が大変だったり税金の支払いがあったり、意外と苦労する面もあるものなのだ。
ちなみに大きな家は買わない方がいいということではなく、後のことまでしっかり考えられる人の方が、後悔が少ないということである。
本当の幸せとは実は意外と近くにあるもので、近年の心理学の研究などにおいては、十分な睡眠時間、運動習慣、雑談やコミュニケーションで人とつながる、没頭できるような趣味を持つ、自然と触れ合う機会を得る、洗車をする、やったことのないことに挑戦をする、というようなことで幸せにつながったり感じたりできることが分かってきている。
大きな幸せや本当の幸せとは、普段の生活の中で感じるほんのささやかな喜びの積み重ねなのである。
③同じことの繰り返し(マンネリ)
普段の生活でも仕事でも、そのことに慣れてきて毎日が同じ生活の繰り返しになってくると、飽きたりつまらなくなってきたりして不機嫌になり、やがてそのことが嫌いになってくる、というものである。
本当は同じことの繰り返しが嫌いなのに、脳が仕事が嫌いだと勘違いしてしまうのだ。
だから、「今までやったことのないことをやってみること」という、ほんの少しだけ日常を変えてみるような、ちょっとした新たな挑戦をしてみるが大切である。
例えば、話しかけたことのない人に話しかけてみる、行ったことのない店に行ってみるなど、自分で意識してやったことのないことをやってみることでマンネリはなくなるし、先入観や固定観念から間違った決断を下すということもなくなってくるだろう。
ただ、社会人であれ何であれ、そもそも自分の機嫌くらいは自分で取れるようになっておくことが大切である。
④ネガティブ思考
人は、ポジティブなことよりもネガティブなことの方を強く記憶するようにできている、という性質がある。
忘れ物をして大失敗をした時のことはいつまでたっても忘れないのに、それを助けてくれた人たちのことは全く覚えていない、というようなことが挙げられる。
人の脳は、何もしないままでおくとネガティブな情報で一杯になってくる。
確かにそれは、生き延びたり危機回避をしようとする機能の上で仕方のないことなのかもしれない。
しかし、ネガティブな記憶が多いままだと、そこから出てくる発想までネガティブになってしまうので、現代社会を生きるためにはそれでは不都合なのである。
発想がネガティブになってくると、普通の出来事や幸せなことでもネガティブに感じてしまうため、そもそも幸福度が下がっていってしまうので次のことに気をつけた方が良いだろう。
・暗い情報、衝撃映像などは見ない
→ 元を断つことが大切である
・ポジティブな言葉を使う、置き換える
→ 今日も疲れた→今日もよく頑張った
・当たり前のことに感謝をする
→ 三食食べて当たり前→三食食べられてありがたい
特に後ろの二つはいくらでもできることなので、意識して自分から行なっていけば、あっという間にポジティブになっていくことだろう。
さらに、当たり前のことに感謝することができたら、試しに一回で良いので自分でも行動に起こしてみるとよい。
体験としてもポジティブな記憶が増えたり、清々しい気持ちを味わえたりするので、自分の体や頭を使って身をもって実感することができ、これは大変強いことなのである。
人の脳は一度良いやり方を覚えると、二度と自分から遠回りをするような真似をしなくなるのは、脳が自分にとって得する方法を自動的に選択するようにできているからである。
しかし、バイアスがかかると、これが捻じ曲げられてしまう。
こういったことについて知り、バイアスがかかって惑わされてしまっても、自ら修正し、本来進むべき道を進んで行かれるようになることが大切である。