相手に何かを教える時に気を付けること

 
 自分以外の誰かに何かを教えようとする時は、教えたいそのことについて、相手が「問題意識」を持ったり、「必要性」を感じているかどうかを見極めることが大切です。
 
 基本的に人は、他人の思い通りは動きません。まして言うことも聞かないし、言ったところで無視するし、当たり前のように聞こえないふりをするし、そもそも返事すらしない、ということを前提にしておくくらいで差し支えはないでしょう。
 まずはこの前提を知っておかないと、教える側が疲弊します。そしてそのままでは、自分にも相手にも何も残らないでしょう。
 
 人が何かに気付くというのは、その人が問題意識や必要性を感じているかどうかに大きく関わります。それならば、相手に自分で気付くように働きかければよいのです。その方が相手も自発性を持ち、積極性も少しは上がるかもしれません。
 普通は他人というものは、基本的には変えることができませんが、しかし例外として、
 
 ・自分で何かに気付き、問題意識を持った。
 ・今よりも変わりたいと思って、必要性を感じた。
 
というような場合に限り、例外として変えることができる可能性が出てきます。
 ただし、あくまでも可能性です。実際に行動に移したらうまくいかず、諦めたり、無かったことにするということが8割くらいはあると思って差し支えないでしょう。
 
 また、こちらがどんなに良いことを話したとしても、どんなに上手な伝え方をしたとしても、相手がそれについて無関心な場合は一向に響きません。だって相手には必要ないことなんですから。
 たとえそれがどんなに核心を突くような重要なことでも、経験者は間違いなく全員が身に付けるはずの基礎の基礎でも、勝ちパターンに入るきっかけとなるような、望んでもなかなか起きないようなことでも、相手がそのことについて関心がなく、行動を改善したいとも思っていないのなら、残念ながらそこで終わりなのです。
 
 
 
 より良い結果に導くためには、まずは相手に問題意識を持ってもらい、必要性を感じてもらうことです。
 こちらが伝えたいと思っていることを伝えたり、上手なやり方を勧めたりする以前に、相手に関心を持ってもらったり、相手が自分自身で「改善をしたい」、「成長したい」と思わない限り、こちらのアドバイスを聞くことはありません。特に相手が幼いほど、「絶対に」が付きます。
 
 こちらも初めから、相手に問題意識を持ってもらったり、相手が「今の自分を変えたい」と思うようなことから言葉にして伝えていく。こうした点から入っていかないと、問題に気付く入り口としても相手の心の最初の扉は開かないし、その次の扉も開いていきません。また、気づきに至るまでにかかる時間も明らかに変わってきます。
 
 一つ例を挙げるとするならば、何かの大会や競争で入賞したいというような背景の場合、相手に「今抱えている問題を解決したい」とか「自分の技術を改善したい」と思ってもらうように、「今のままでいいの?」と問題意識を刺激して、変化や自己成長を促すことが、手のうちの一つとなることでしょう。具体的なやり方を教えたりアドバイスするのはその後になるのです。
 ちなみに、「今のままでいいの?」と自然に聞ける関係を築いていくことも大切です。大して関係も深くない相手からいきなり普通にこんなことを言われたら、自分だってちょっとイラっとしますよね?
 
 人の行動や性格を変えたい場合、何にせよものすごく時間がかかります。それに相手が素直な性格でないと意思疎通の頻度も上がらないし、基礎技術や応用技術が上達するのも、その後習熟するのも遅くなっていくでしょう。
 また、コツやアドバイスを伝えるにしても、1回や2回で上手くいくことはほとんどありません。飲み込みの早い人は10人か20人のうちに一人いれば良い方で、速い人でも大体は3か月から半年ぐらいを見ておいた方がよいでしょう。遅ければ一年以上かかることもあります。集団として根付いていくべきことなら、数年かかることもあります。
 
 ですから、相手を何かに気付かせたり、行動を変えさせたいと思ったり、教えてできるようにして成長させてあげたいと思ったら、半年から一年ぐらいは見越しておいて、効果を感じるのはようやくその後になるという覚悟は持っておき、気長に待つ器の大きさと、計画性、伝え方の手数、相手とのコミュニケーションの取り方と気持ちの読み方くらいは日々磨いていく必要があるでしょう。
 
 
 
 人は、他人から「やれ」と言われるほどやらないものです。教える側も「やれ」で済ませるわけにもいかないし、「お願いだからやってください」の姿勢になるのは本末転倒です。基礎や土台となることは伝え続けていく前提として、その他にも自分がやってみてよかったやり方、効率の良いやり方を、地道にコツコツと伝え続けていくとよいでしょう。
 
 そうして地道に伝え続けていると、どのタイミングかは分かりませんが、相手の方からやり方について質問されることが出てきます。そうしたら、そのタイミングで詳しく説明したり教えてあげると、相手にとっても良いタイミングになるので、吸収も早く効果もかなり出やすくなるでしょう。