人前で話す時に押さえておくポイント


 人前で話す機会というのは、何かの拍子で突然訪れるものです。
 社会に出て様々な経験を積んでいけば、そこそこ大勢の前で話したり、大切なことを伝える場合もあるでしょう。
 普段のお喋りのように一人や数人程度ならば誰にでも経験があるのでしょうが、大勢の前でとなるとどうでしょうか。

 筆者はさすがに何千人、何万人の前で演説やスピーチをした経験はありませんが、それでも仕事柄、数十人~百人ちょっとという程度ならばあります。
 人前で上手に話したいのであれば、その時まで何の準備もせず「どうしよう」となってしまう前に、ある程度の知識と対策を知って、少しずつ慣れておいた方が良いです。

 

 

 

①伝えたいことを事前にアウトプットしておく

 話の目的を明確にしておくことは、人前で話す手前の段階で確認すべき最も重要なことです。
 明確にしておくから、話し出しから締めくくりまでの道筋も立てられるのです。
 ここがぼやけていると、いくら話術やテクニックを学んだり、有名な人の言っていたことや名言などを話に含めても話の軸がズレてしまい、自分が本当に伝えたいことが伝わらなくなってしまいます。

 また、アウトプットしておくことで自分の記憶に残りやすくなるので、いざ話す時になって「忘れちゃった」という事態を防ぎやすくなります。
 頭の中にあることを一度でもアウトプットして整理しておくと、話の目的、伝えたいこと、使う言葉のイメージなどがより明確になり、整理した状態で記憶することができます。
 
 事前のアウトプットといっても、本を読んで気づいたことを自分なりの言葉としてまとめたり、自分でやりたい、やるべきと思ったことをToDoリストに書き起こすような感覚で十分です。
 何となくぼんやりとイメージだけがある言葉を、単語や箇条書きレベルで言葉にしたり、何か参考になる文章から自分の言葉としてまとめるということを、紙でもパソコンのメモ帳でもよいからうまく活用して事前に文章にして、推敲したり順番を入れ替えながら流れを作っていきます。

 ちなみに筆者の場合は、最初は紙に書き起こします。
 特に音楽の指導先で話すとなると、生徒の方々の習熟段階や大切に感じているであろうことと、こちらが伝えたい内容とそのタイミングなどが、その時期その時期によって異なるからです。
 伝えたいと思うことをイメージでも単語でもキーワードでも、思いついた通りにメモ帳なり裏紙なりに書き出して、その時点で思いつく限りの文章としてまとめていきます。

 そのメモを、少し時間を空けてからスマホの音声入力ソフトで手直しと文章化をしながらテキストデータにして、クラウド型のメモ帳などに保存します。
 最後にそれをパソコンを使って手直ししていくという流れです。
 紙媒体で何度も赤入れをしない理由は、パソコンの方が文章の推敲も、修正も、コピー&ペーストも、ファイルの複製も簡単にできるため、より適しているからです。

 

②伝わらないことを前提で話す

 人前で話をするにあたって、自分が上手なのかどうかについて気に病んでしまう人が多いかもしれませんが、誰だって一番最初は不慣れなものですし、場数を踏むほど成長するものですから、まずは気にしないことです。
 それよりも、伝えたいことが整理されているかどうかの方が重要であって、整理されていなければ論理立てて話せないのです。
 たとえ、話し方がたどたどしくても緊張してあがっていても、伝えるべき要点と順序がしっかりしていれば、そんなに心配せずとも結構伝わるものなのです。

 大切なことや話のテーマとなる言葉を伝えようとする時、演説やスピーチが上手い人には次の2点が多く共通していると言われるそうです。

 ・同じ話を違う視点や切り口で何度も何度も繰り返して話す
 ・エピソードを交えるなどして、聴き手の共感性や想像力に働きかける

 また、何か一言喋ったら、相手がどう言い返してくるかを想定しておくのも良いでしょう。
 反論という意味だけに限らず相槌や受け答えや質問の様子によって、相手の「どんな反応をしているか」、「理解の深さはどのくらいか」ということを見ることです。
 そうして相手の興味、集中力、その場の雰囲気や反応などに合わせて、話の枝葉の部分を一つ増やしたり省略したりするなど、話しながら調整していくと良いでしょう。

 

③先に形式を伝える

 持ち時間が限られている時や既に大枠の流れが決まっている時などは、先に形式を伝え、短く伝えた方が良い時もあります。
 例えば、朝礼で3分間の話をしたり、部活やサークルなどで何かの本番が近づいてきた時期に合わせてモチベーションを上げる話をする時などがあります。

 (1) テーマを一つに絞る
  例:「今日は〇〇をする日なので、一番大切なことを伝えます。」

 (2) 大事なポイントを3つに絞る
  例:「これから△△するにあたって大事なことを、3つ覚えてください。」

 (3) 結論→理由→最後にもう一度結論
  
 こうしてみると、話題をピックアップしたり具体的な例や言葉を入れやすくなります。
 全体的に話をざっくりまとめ過ぎるとかえって伝わらないこともあるので、まずは(1)の点を外さないように構成すると良いでしょう。

 

④程々の表現で伝える

 自分の考えをきちんと相手に伝えるということはなかなか難しいことかもしれませんが、程々の言い方を意識して使えるとよいだろう。
 強い言い方や弱い言い方でなく、程々のところ。
 これに加えて、見える事実、感じている気持ちなどを伝えれば相手に伝わることも多くなります。

 「必ず」、「すべて」、「100%」、「0%」、「みんなが」、「誰もしない」など、強い弱いの極端な考え方は誰でも割と思いつくのだろうが、ほどほどとなるとどうだろうか。
 ほどほどにすれば、黒か白かの話題になるよりも、もう少し詳しい状況説明や補足などをした方がよいという必要性から、話題によってはかえって伝わりやすくなることもあります。
 もし、こうしたことを普段から少し意識してみるだけでも良い言い方というのは出てくるものなので、やってみる価値はありそうです。

 また、相手がわざと伝わっていないふりをしているとか、知識や経験の差が圧倒的にあり過ぎて伝わらないという状況でもない限り、「うまく伝わらない時こそ自分目線だけで事実を羅列したり感情的になりすぎていないか」と振り返ることもまた大切です。
 ほどほどの言い方を少し意識して見える事実と感じている気持ちを伝えることで、今までより多少はうまく伝えられるようになるきっかけとなるでしょう。

 

⑤「自分がその場にいられて感謝」と思うようにする

 人前で話すのは誰でも緊張するものです。
 また、色々な人達が貴重な時間を使って自分の話を聞くことになるのだから、「あー嫌だなぁ、プレッシャーだなぁ」とため息の一つも吐きたくなる気持ちも分かります。

 しかし、そんな良い機会もなかなか巡り合えることでもないでしょう。
 もしそこでみんなをハッとさせるようなことを伝えることができれば、きっと「スゴい人だ」とみんなに思ってもらえることにもなるでしょうから、とりあえずは「そもそも貴重な場に自分が立てるということは素晴らしい」と思うようにしてみると気持ちも前向きになります。

 物事は、そこに向き合う姿勢一つで受け止め方も大きく変わります。
 前向きな気持ち、やらされてる気持ちなどで嫌々やればストレスになるし、面白いと思ってやればドーパミンも出て、前向きで楽しい気持ちになってパフォーマンスも上がるのです。
 「その事に対してどう思うか」で結果は大きく変わるわけですから、せっかくならやらされてる気持ちは取り除いた方が良いでしょう。

 また、他の人が得ることができない経験や収穫というものが必ずあるはずです。
 「上手にやれるために何ができるか」、「上手にやったから何か得られたか」、などのメリットは必ずあるものなので、それを考えたら「自分ならどんなことができるか」をピックアップして書き出してみた方がよほど前向きです。
 差し当たってメリットと言えるのは、次のようなものが挙げられます。

 ・話し方、伝達力を上達させる機会
 ・スピーチやプレゼンのスキル向上の機会
 ・将来に役立てるための練習と段取りの効率向上の機会
 ・場数を踏める
 ・人前に出ても過剰に緊張しないようになる

 さらに、そういうような場において、もし有名な先生方や業界のお歴々が参加していたりしたら、そしてもしその人に質問されたとしたら、通常ではあり得ないほどの貴重な経験にもなるはずです。

 自分も能力が上がり、他人もその場に来てくれるというのは、むしろ有り難いことであり感謝すべきことです。
 そこに「やらされ感」や「嫌な気持ち」を持って行ってしまうのは、かなり勿体ないことです。
 それよりも、「もしうまくやって評価されるなんてことになったら」と考えれば、それだけで少し気持ちも上がってどんどん楽しくなっていくというものです(「そんなことになるわけないでしょ」という気持ちももちろん分かります)。

 人生の中では、何かのイベントや発表や面接といった、不安や緊張を伴う場面がどこかに必ずあるものです。
 もしそれが面接だとしても、企業の社長などと話す機会なんて普通はないし、さらに有名な経営者であったとしたらまたとない機会にもなるし、感謝すべき有り難いことにもなるのではないでしょうか。
 ですから、とりあえずのところは、感謝の気持ちを持って、勇気をもって一歩踏み出して、まだやった事のない場に臨んでみるのが良いです。

 不安や緊張を超えるくらい「良い機会に恵まれた」と思えば、不思議とその不安や緊張な気持ちというのは徐々に取り除かれていくことでしょう。
 日常のいつもの仕事で考えれば大仕事に抜擢されるようなものでしょうから、上司や仲間に対して「大切な仕事を自分に任せてくれて有り難い」と考えることで緊張やプレッシャーが減っていく、というのとよく似た感覚かもしれません。

 もしも、「嫌だなぁ」と思う場に出向くことがあったら、「むしろ感謝して臨む」という気持ちで向き合ってみると、気持ちも変わってきます。
 どうせやるなら勇気をもって「えいっ!」と一歩踏み出して、前向きにやった方がいいのです。
 そこに臨むにあたっては、自分にとって収穫できることを考えてもいいし、ゲームをクリアするかのように進めていくことをイメージしてもよいから、とにかく前向きに楽しむ気持ちを持って、或いはそうした気持ちを自分の中でしっかりと作り上げて取り組んでみると良いでしょう。

 

終わりに

 自分の話が上手く伝わったかどうかについては、相手が納得しているなどの反応をよく見ることです。
 最初は伝えるだけで精一杯かもしれませんが、これも場数を踏んでいくことで、相手の反応を見ながら話をしたり、話の伝え方や路線を途中で修正しながら進めるなどということも、少しずつできるようになっていくでしょう。

 少し寂しい言い方かもしれないが、もしかしたら人というものは、基本的には分かり合えない者同士なのかもしれません。
 しかし、だからこそそれを意識しておくと、意見や考え方が違っても、焦って相手と同じ考えになろうとしてしまう手前で、「あぁ、分かり合えない時もあるんだ」と落ち着くこともできるのでしょう。
 ただ、せっかく自分から物事を伝えるのであれば、少しでも上手になった方が良いし、自分や相手や関係する集団が良い方向に進んだり前向きになっていく方が良いのは間違いありません。


 筆者もとても人のことを言えたものではありませんが、やはり人前で上手に話せるようになるためには、伝えたいことを日頃から紙でもデータでも何らかの形でアウトプットしてみるということが、地道かつ確実なやり方となります。
 しかも自発的にやるほど、その分記憶や経験として残る。
 なんとなく見たり、聞いたり、思ったり、やったりしていることは、ほとんど記憶に残りません。

 また、話す、書く、行動するということをやる人とやらない人では圧倒的な差が出るし、話が上手な人の多くは単純にこういう地道なことを、何回も、何ヶ月も、何年も続けているのです。
 今の時点が0で、話が上手な人が100とすると、今日やった小さなアウトプットはおそらく0.1にもならないかもしれません。
 また、ある程度の準備をして「いざその時」となったら、やはり度胸と場数と慣れが必要で、「また失敗した」、「あそこが納得いかなかった」というのが現実なのですが、しかしやった分だけ確実に蓄積されていくのです。