メモを取りたがる生徒さんにはどんどん取らせた方がよい

 
 音楽指導をしていると、私が今言ったことについてメモしようとする子がいます。
 一件当たり長くても20~30秒の家収まるようであれば、必要ならどんどん取るように言っています。
 例えば、次のようなことです。
 
 ①(一般的に広く使われる)大事なことを言われたこと。
 ②自分の今後の向上について大事だと感じたこと。
 ③自分が次にどのような行動を取るべきか、思いついたこと。
 
 
 
 学生の、特に幼い年齢であるほど、ある種残酷なもので、「そんなことメモしないと覚えられないのかよ」とバカにされていたりします。
 言われた子は「だってメモしないと忘れちゃうから」と言い返したりしている、そんな状況に出くわすことがあります。
 決して異様な雰囲気の現場であるとか、冷たいやり取りの現場という意味ではありませんが、まあ現代でもよくある光景なのかな程度に思っています。
 
 一分以上かかるとか、長文を正確にメモしたいというのであれば、その時は控えて後回しにする方がいいのかもしれませんが、要点だけササッとメモるというのであれば、むしろどんどん行ってもらうように働きかけています。
 前述の言われた子のように、私自身も忘れてしまうからです。というか、人はそれほど一度にたくさんのことを覚えきれないからです。
 
 また、次のような場合でメモを取りたいと思った時は、誰にバカにされようがとりあえずさっさとメモを取ってしまった方が勝ちです(その後有効利用するのはその人自身ですが)。
 
 ①外部指導者のように、いつも近くにいる存在でない人が大事なことを言った。
 ➁異なる環境で生きてきた人が、同じ物事について異なる角度で大事なことを言った。
 ③今まで聞いたことがない言葉だけど何か大事そうだと感じた。
 
 
 
 人間の脳にはワーキングメモリと言って、目や耳から入ってきた情報で作業に必要なものを、一時的に保存したり処理したりする能力があると言われています。
 そのキャパシティは、今日に疲労が蓄積していない人でもせいぜい一度に三つくらいだそうです。
 それらはもちろん、どこかで聞いたり知ったりして認知した上での言葉なのは、言うまでもありません。
 
 だから、メモをする時点で知らないことであれば、聞いたり調べたりしなくてはなりませんし、そうするからこそ記憶できるようになることにもつながっていきます。
 
 アルバイトでも仕事でも何でも、一度に一つ二つの指示だったらサッと対応できるかもしれませんが、一度に五つ指示が出たら難しいでしょう。
 その中で知らないツールを使ったり、知らない部署とやり取りする必要があるのなら、一つ一つ聞いて、メモしたり調べたりしますよね?
 POSレジの操作について覚えることがあるからメモを取る必要があるのに、「私にはそろばんと大福帳があるのでメモは不要です」とはなりません。
 
 買い物だって、10個も20個も買い物するのであればメモが必要でしょう。
 牛乳一本買うのを頼まれたとき、それをリストに書き込むのは何の問題もないと思いますが、では例えばロマネスコなどを頼まれた場合はどうでしょうか?
 ロマネスコという名前を知らなければ、「え、何?」くらいは聞き返すと思いますし、文字の綴りはどうか、どのようなものなのかを、チラシを見るなりスマホで調べるなりすると思います。
 何となく似ているからといって「ブロッコリーないしカリフラワーでも可とする」とはなりません。
 
 
 
 先ほどのメモを取る生徒さんは、恐らく早く上達したいのでしょうから、音楽に限らず日常生活でも学業でもアルバイトであっても、「抜け、漏れ、手戻りなどのミスを減らし」たり、「作業そのもののレベルを上げて何事もそつなくこなしていく」ためにも、メモは習慣にしたほうがよいです。
 さらに、ご自身が音楽をやっている、例えば中学3年間などの間に芽が出るかどうかまでは保証できませんが、「どこに行こうが必ず必要になる力」ですので、確実に自分の力の土台となることでしょう。
 
 ちなみに、ここまでの話は学生さん相手の時の話を思い出して書いておりますが、スマホなどの機器が自由に使える大人の世代の人達の場合は、アプリのメモ機能を使ったり、画像に撮って保存したり、声に出して歌って音声入力などをしておき、後でまとめ直しをする人もいますので、何かの参考になればと思います。
 
 私自身の場合は、音楽をやっている人たちばかりだったので少し変わった例になるかもしれませんが、次のように書いていた人は割と多く見かけたことがあります。
 
 ・譜例として音楽の一部を書き出してメモする
 ・演奏グレードが変わったらどのような表現ができるかなど難易度別に書いてみる
 ・音楽のことが分からない人に伝えるにはどのようにするかを想定して書く
 
 また、こちらが大切なことを言っているのに、それをメモしようとも覚えようともせず、人のことを嗤っている暇人は、一、二年のうちに埋もれてしまうでしょう。
 だって、そんなことをした瞬間に、先生や指導者から「この人物は指示や号令を必ず漏らすであろう」と認識されてしまったことに気づいていないのですから。
 まあ学生ですから、やり直したり気持ちを入れ直したりすることはあるでしょうから、この先ずっと名誉挽回できないとか、学び直しの機会がゼロのまま、ということはもちろんありませんが。
 
 
 
 最後に、今までとは関係ない話になりますが、メモ関連の話を思い出したので、ついでに書き留めておきます。
 筆者の大学時代に、文章をまとめる力と、図解化する力と、漫画のキャラクターみたいなユルい絵を書くのが上手で、大変優秀な友人がいました。
 試験近くになると、彼のノートのコピーを取らせて欲しいという人間が殺到していたのを覚えております。
 
 彼は、自分の大切なノートを他人に渡してコピーさせるようなことはしませんでした。
 当然、そのようなお人好しの行為をすれば、自分の知識の結晶が自分の手元に帰ってくることは永久にないことは明らかです。
 その代わり、彼が本気でまとめあげたA4ノートを自らコピーして、見開き1ページ当たり1枚1000円で売りつけました。
 
 誰かが1000円で買って、その後の割り勘やコピー代などの金銭のやり取りはお前らでやれ。ということでしょう。
 当時のコピー代は1枚10円でしたので、群がる人たちがまあ20人ぐらいですから、一人当たり50円の売り上げにはなるでしょう。
彼は1枚1000円で売ってさえしまえば、後はどうでもよかったのです。それよりも、自らの努力を怠り何も積み上げてこなかった人たちに、彼の時間を邪魔されたくなかったのでしょう。
 
 今のこのご時世で、若い大学生の世代の皆さんには何と言われるか分かりませんが、当時はロクに出席もしなかった学生相手の事だったということもあり、私は個人的には1枚1000円でも安いんじゃないかなと思いますが。
 私も、そのようなコピーがどのようなものなのか、1枚ぐらい買ってみてもよかったのでしょうが、とうとう買うことはありませんでした。横目で見て何となく知っていましたし、話し方や考え方など、一緒に過ごす時間の方が楽しいし良い経験になりますからね。
 
 それにしても、今回のテストでも売れると分かって、本気でまとめあげて、売るためにコピーを作ってきている彼もなかなかの豪傑です。
 また、本気でまとめあげたと言いつつ、ロクでもない学生の方の成績が、彼や私たち地道にやる学生に比べて常に及第点ギリギリだったというところをみても、100%は与えないという彼の商才の逞しさを感じるとともに、やはりメモは(もちろんノートも)自分で取るべきだ、と思います。
 
 彼とは卒業を機に会わなくなってしまったのですが、どこかで同窓会でもあればもう一度会いたいなと思っております。
 その時には私も、「私が住んだこともない地域の、通ったこともない学校の音楽準備室の壁に、私の書いたメモを貼って活用してくれている場所がいくつか出来たよ。」と伝えてみたいですね。
 
 もちろん、私のメモは何枚書いても0円です。